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大阪家庭裁判所 昭和47年(家)1938号 審判 1972年10月05日

申立人 青山昇(仮名)

国籍韓国、住所大阪府城東区

事件本人 張里枝(仮名)

主文

事件本人張里枝の親権者を申立人と定める。

理由

一、本件申立の要旨

申立人は、昭和四一年一二月韓国人である亡張道子と事実上の婚姻をし、その間に昭和四二年九月二一日事件本人を儲けたが、亡道子は同年一一月七日死亡したので、申立人において、昭和四七年八月二日事件本人の出生届出をなすとともに、事件本人について韓国人として外国人登録手続を了した。申立人は、前記出生届出と同時に事件本人を認知し、また、事件本人出生以来現在まで事件本人を手もとで養育中であり、今後も養育していくつもりであるから、申立人において事件本人の親権者となりたいのであるが、事件本人の母張道子は前記のとおりすでに死亡し、事件本人の親権者の指定について協議することができないので、その協議に代る審判を求める。

二、申立人の戸籍謄本、大阪市城東区長作成の死亡届出、出生届出および認知届出各受理証明書、大阪市生野区長および城東区長作成の外国人登録原票謄本、当家庭裁判所調査官作成の調査報告書を総合すると、

(1)  申立人は、父青山庄一郎、母たま間の四男として昭和一六年九月八日大阪市旭区において出生した日本人であり、亡張道子は、父張景彰、母小夜子間の長女として一九四五年(昭和二〇年)六月一五日長野県において出生した韓国人(本籍全羅南道○○郡○○面○○○)であること、

(2)  申立人は、昭和四一年一二月ごろ大阪市生野区において前記張道子と事実上の婚姻をし、同棲していたこと、

(3)  その間に、昭和四二年九月二一日事件本人が大阪市城東区で出生したこと、

(4)  ところが、張道子は婚姻届未了のまま産後の肥立が悪く同年一一月七日死亡したこと、

(5)  申立人は、手続がめんどうであつたため、事件本人の出生届出を遷延していたが、就学時期が近づいたので、昭和四七年八月二日城東区長に対し出生届出をするとともに、事件本人を任意認知する旨の届出をし、さらに事件本人について韓国人として外国人登録手続をしたこと、

(6)  申立人は、張道子死亡後父母のもとに帰り、母たまの手助を受けて事件本人を養育してきたこと、

(7)  申立人は、昭和四七年八月一六日従妹の青山礼子(昭和一八年一二月二〇日生)と婚姻し、それ以来同女が事件本人の監護にあたることになつたが、事件本人も同女によくなつき、家庭内は円満であること、なお、申立人は、事件本人の帰化が許可になれば、いずれ妻礼子と養子縁組する考えでいること、

(8)  申立人は、事件本人について日本に帰化の手続をする予定でありその手続を進めるためにも、事件本人の法定代理人を定める必要があること、

が認められる。

三、事件本人は韓国籍を有し外国人登録をしているが、申立人および事件本人は、いずれも大阪市内に住所を有し、かつ、後記の如く本件の準拠法は日本法であるから、わが国の裁判所が本件について裁判権を有し、当裁判所にその管轄のあることは明らかである。

四、本件は非嫡出子に対する親権者指定の特殊な場合であり、要するに親権の問題であつて親子間の法律関係の問題に含まれるものと解されるから、本件の準拠法は、法例二〇条によつて、父あるときは父の本国法によるべきことになる。ところで、ここにいう「父」とは、法律上の父を意味するものと解すべきであるから、申立人が事件本人の法律上の父たる資格を有するか否かについて検討する。

まず、申立人と事件本人間の嫡出親子関係の存否について考えると前記認定のように申立人と事件本人の母亡張道子とはいわゆる内縁関係にあつたにすぎず、法律上婚姻したものとは認められないから、申立人と事件本人の間に嫡出親子関係が存しないことは明らかである(法例一七条、日本民法七七二条、法例一三条一項但書、日本民法七三九条)。

つぎに、申立人と事件本人間の婚外親子関係の存否について考えると、わが法例一八条は認知についてのみ立言しているが、その本来の趣旨は、婚外親子関係一般の成立問題を、その原因たるべき事実の発生した当時における各本国法にしたがつて決定されるべきものとするところにあると解されるところ、本件においては、申立人は前記のとおり日本人であり、事件本人は韓国人である亡張道子の非嫡出子であるから、韓国籍を有するものと解されるが(韓国国籍法二条三号)、日本民法および韓国民法のいずれもが婚外父子関係の発生について認知主義をとつているので、認知の有無およびその認知が有効であるか否かについてのみ検討すれば足りることになる。ところで、前記認定のとおり申立人は昭和四七年八月二日事件本人を認知しているから、右認知が要件を充足しているか否かについて検討するに、認知の要件は、認知当時の当事者の本国法により定まる(法例一八条一項)ところ、前記のとおり認知当時申立人は日本人であり、事件本人は韓国人であるから、それぞれの本国法である日本民法および韓国民法により前記認知の有効無効が決せられることになる。しかして、前記認知は日本民法および韓国民法の規定する要件をすべて充足しているから、有効であること明らかであり、申立人は右認知によつて事件本人の法律上の父たる資格を取得したものというべきである。

以上の次第であるから、本件親権者指定の準拠法は、法例二〇条により父たる申立人の本国法である日本民法となる。

五、そこで、日本民法により本件申立の当否について検討する。前記のとおり、事件本人は申立人と亡張道子の婚外子であるから、亡道子の親権に服していたものであり、実父たる申立人が事件本人を認知した昭和四七年八月二日より以前の昭和四二年一一月七日に亡道子が死亡していたことは前記認定のとおりであるから、申立人の認知当時には、すでに事件本人について後見が開始していたことになる。かかる場合に親権者の指定が許されるか否かについては、日本民法八一九条四項、五項の解釈上見解のわかれるところであるが、認知した父が親権者たる適格を有し、かつ、父を親権者とする方が、子の福祉に合致すると認められる場合には、これを親権者に指定することができるものと解するのが相当である。

そこで、これを本件についてみるに、申立人は事件本人の出生以来現在まで引き続き手もとで監護養育してきたこと、および事件本人の帰化手続をなしていることは前記認定のとおりであり、これに申立人の職業、収入、性格および事件本人との人間関係等をあわせ考えると申立人は事件本人の親権者としての適格を有しているものと認められまた、申立人を親権者とすることは、より申立人の父親としての自覚および責任感を高め、事件本人に対する愛情を深めることとなり、事件本人の利益となるものと判断される。

六、よつて、本件申立は理由があるから、これを相当として認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 赤塚信雄)

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